総務部メルマガ

2004/12/06

第32号

 いくつかの経済指標を良い方向に支えてきた要因が崩れてきた。中国
 経済の見通しやデジタル家電の動きである。今までは、少々中途半端
 でも、中国経済やデジタルなどの支えが働き、まだ何とかなっていた
 傾向があった。この支えが機能しなくなって、いよいよ、年末から年
 度末にかけ、大手・中小・零細企業に至るまで、組織主義から機能主
 義への経営管理の転換を余儀なくされる。
 ところで世間は、この秋からは卸小売業をはじめとして、経営管理の
 機能が発揮されない限り、賞与をはじめとして人件費を直接削減せざ
 るを得ない状況である。世界に向けて、高付加価値商品や高水準サー
 ビスを提供していくとしても、国内の個人消費の低迷は、とても痛い。
 それも1400兆円といわれる貯蓄?を狙って、イタリアなどの外資系が
 国内の個人消費支出の中で幅を広げ、有能な外国商売人が日本にやっ
 て来ている始末である。
 大手都市銀行の不良債権処理計画と再編は目標達成をほぼ果たし終了
 段階を迎えた。地方銀行や信用金庫などは最後の仕上げに、これから
 入っていくのである。不良債権処理をしなければ破たんさせられるか
 大手都市銀行の下請銀行にならざるを得ないから、各銀行も必死であ
 る。地銀の中で、「比率」をクリアしている銀行の存在であるが、も
 ちろん首都圏は全滅、全国を見ても関西の三行だけとの情報が流れて
 いる。来年3月末の不良債権処理期限まで、これらの要因が個別企業
 を襲ってきているのである。
 ではあっても、昔とは違って、機能主義の路線を選んだ個別事業には、
 すぐさま豊かさが享受されるようになった。「世の中、損する者が居
 れば、得する者も居る」などとの、非経済学的な迷信は通用しなくな
 りつつある社会である。

 組織主義から機能主義へと、個別企業の経営管理のあり方が再編成さ
 れる時代であるからこそ、個別の労使紛争が急増しているのである。
 確かに、社会秩序と労働市場の再編成の引き金は、税制上の退職金引
 き当て制度の廃止、適格年金の崩壊、公的年金等の不透明な社会保障
 制度が引き金を引いてしまった。個別企業にとっては、経済再生の要
 である高付加価値商品や高水準サービスを提供していく上で、社員の
 労働意欲低下と企業内秩序の崩壊は致命的な障害となる。
 11月10日、2年ほど前の事件で、札幌地方裁判所は「笑顔がない」こ
 とを理由に27歳の女性介護職員を退職させた病院に対して、解雇無効
 と約2年間の賃金及び25万円の慰謝料の支払いを命じた。組織主義で
 あれば病院の主張する「笑顔」も必要だったかもしれない。航空会社
 の客室乗務員の笑顔のように機能重視であれば、まったく別の対応と
 なったであろう。組織主義においては、社員を組織周囲の人間関係に
 はめ込み、はめ込みきれないので排除した途端に訴訟や監督署に走ら
 れてしまって、「切った張った」の対決にならざるを得なかった。だ
 から、社員は労働組合などの組織を通じて対抗したのである。国の機
 関で独立行政法人に移行し民間事業となるや、労働組合員加入者が増
 えているとのことで、いまだにこの傾向は存在しているのだ。
 業務や経営を機能主義へと転換させたならば、トラブルや紛争を人間
 関係の破壊に至らせないようにしなければならない。この場合の人間
 関係とは業務指示系統機能であり、コミュニケーションであり、ボト
 ムアップであり、労働意欲の向上をコントロールすることである。こ
 れが「物事を経済学的に進める」ということである。この指向性は、
 北欧を筆頭に、イギリス、ドイツの経済回復で実証されている。今注
 目されている紛争調整委員会のあっせん制度は、裁判等のような「対
 決的紛争処理」ではないこともあって、機能主義の時代に対応した国
 家の用意した紛争調整の制度なのである。同一事案を労使のいずれか
 らあっせんの申請をしても、その目的や機能を期待できる。旧来は中
 間管理職とか人事担当者が行っていたトラブル調整を「あっせん代理
 人」にアウトソーシングすることもできるのである。

 「労働紛争のあっせんを持ちかけられたら、どうすればいいか」の経
 営者人事担当者向けの記事が、日本実業出版社発行の企業実務誌12月
 号に載りました。著作は弊社代表取締役の村岡利幸です。制度の概要
 ではなく、あっせんをどう活用すればよいのかについてまとめました。
 A4判4ページ建ての記事です。必要な方には、見本の白焼きコピー
 をお送りします。ただし、お送りするについては、電子データになっ
 ていませんから、事務方の手間がかかりますので、次の通りの費用を
 お願いいたします。
 [注文方法]
 見本の白焼きコピーを1枚……返信用封筒と80円切手2枚を送付。
 [送り先]
 540-0022 大阪市中央区糸屋町2?1?6 株式会社総務部コピー係

 定年が国家の強制で引き上げ。
 平成18年4月から62歳、19年4月から63歳、22年4月から64歳、25年
 4月から65歳と段階的に、個別企業の定年が引き上げられることにな
 った。平成19年から団塊の世代が60歳定年を迎える「2007年問題」に
 対して、年金受給開始時期とのズレにあわせての国家的危機の回避策
 そのものである。
 ただし、労使協定でもって合意基準を設定すれば、ある程度社員の中
 で、能力の低いものは定年等の延長から除外することができるように
 なっている。これらは正当かつ合法的な手続きを行った上でのことで
 あり、何も決めなければ全員を定年延長しなければならない。就業規
 則などで定年を定めなければ当該本人が死亡するまで雇用義務が発生
 することと同じ理屈である。
 対象者選定の基準となるわけであるが、恣意的に雇用排除しようとか
 法律や公序良俗に反するものは認められない。(1)意欲、能力等をで
 きる限り具体的に測るものであること(具体性)、(2)必要とされる
 能力等が客観的に示されており、該当可能性を予見することができる
 ものであること(客観性)?が必要となった。「社内技能検定レベル
 Aレベル」「営業経験が豊富な者(全国の営業所を3カ所以上経験)」
 「勤務評定が開示されている前提で、過去3年間の評定がC以上(平
 均以上)のもの」などが例示されている。反対に「会社が必要と認め
 た者」「上司の推せん」「男性」などはまったく認められない。
 厚生労働省は、高年齢者雇用確保措置に関して質問の多かった事項に
 ついて見解を示したQ&Aを公表している。
  http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/qa/

 労働組合法が、55年ぶりに改正された。労働組合が無いからといって、
 安心してはいけない。コミュニティユニオンといって、社員個人単位
 で入れる組合が全国各地に存在するので、個別企業で労働組合を結成
 しなくても、一個人が労働組合事務所に寄って加入申込をすれば、そ
 の個別企業に労働組合が存在することになるのである。
 すると、会社側が、労働組合員や労働組合団体に対して、行ってはな
 らない行為がある。組合員だからといって差別をするとか、団体交渉
 を拒否するとか、正当な組合活動妨害するとか、組合をやめさせよう
 とすること等である。これらの行為を「不当労働行為」という。労働
 組合活動には、面会強要罪や不退去罪などでの刑事免責とサボタージ
 ュやストライキ損害賠償での民事免責があり、この範囲での自力救済
 権を持っている。この自力救済行為が正当な労働組合活動に該当する
 ため、これに対抗した会社の行為が不当労働行為かどうかの「審査と
 労働組合救済」が行われるのである。救済内容では原状回復のみなら
 ず、解決金(ペナルティー)や1文字5センチ角の謝罪文を会社門前
 に掲示することも命令される。
 この審査と救済が、今までは、期限も決めずに、ノンベンだらりと行
 われてきた。それが今回の改正で、あらかじめ「テキパキと」審査の
 進行や救済される場合の時期が計画されることとなったのである。審
 査にあたる中心の公益委員を常勤させることができるようになった。
 職権により証人や証拠の提出命令が可能となり、拒否すれば訴訟の際
 の追加や「後出し」証拠は出せなくなった。
 複雑な不当労働行為事案以外は早期審査となるため、労働組合とって
 は非常に有利に働く。会社側の明確な不当労働行為は、次々と即座に
 排除される。おまけに、従来から不当労働行為事件を扱える経営側の
 有能な弁護士は非常に数が少ないので、最低限300万円(三百)の着手
 金を用意しないと、労働側の弁護士に論述で負けてしまう。労働側の
 弁護士は、東大や京大法学部の現役司法試験パス組の宝庫であり、日
 本労働弁護団その他を形成して日常的に切磋琢磨しているから、頭脳
 の有能さでは負けるのである。
 なお、今まで地方労働委員会と言っていたが、改正により、「都道府
 県労働委員会」に名称が変わります。施行は、来年1月1日から。

 来年1月のメルマガ発行は、平成17年1月11日にさせていただきます。
 年の初めの「税務と労務」は掲載しておきました。明るく良い年を迎
 えください。