総務部メルマガ

2008/02/05

第70号

労働分野における、規制緩和のリバウンド

ガソリン税、年金問題、サブプライムに端を発する銀行融資減少、そこへ中国冷凍食品への対応と、政治課題が目白押しの中で、意外と労働分野における政策転換に関心が寄せられていない。
昨年11月28日に成立した労働契約法は3月1日の施行に向けて、ひたひたと準備が進められている。グローバル経済基準にあっての労働分野の契約思想を、法律と法定法理でもって、定着させようとするものだ。
ホワイトカラー・エグゼンプション制で話題になった労働基準法の改正は、今も継続審議となっており、月の時間外労働が80時間を超えた場合の割増率引き上げが成立する可能性もあり、早ければ、10月1日施行となるかもしれないのだ。
最低賃金法も改正され、徐々にではあるが、1時間1000円に限りなく引き上げられていく見通しである。日本経済の浮上のためには、賃金引き上げが不可欠といった主張は、実は与野党共通して認識されているのであって、要するにマニフェストに記載すると選挙で票が少なくなるだけの話の程度に過ぎないのだ。すなわち、最低賃金引き上げ反対を口にしなくとも、引き上げ反対運動をするわけでもないといった政治家の態度なのだ。最賃引き上げに反対のまともな学者は誰もいない。
したがって、数年後にかけて段階的に1000円に近づくことを想定して経営する必要があり、これは2年半後の銀行貸し出し金利の3%引き上げ(これに向けて銀行の貸し出しは昨年度対比?1.2%)の時期と重なると見て良い。

ところで、経団連の御手洗会長は、年末にリーダーのあるべき姿を
第一に、使命や役割を果たすためには、経営は基本的にトップダウンであるべきだ
第二に、「優れた決断力」を発揮することである
第三に、「私心がないこと」である
最後に、先見性をもつことである
とした一方で、この先10年を構想して、その目標を達成するには競争力一辺倒、成果主義偏重の姿勢を改める必要があるとしたのである。2007年度版の経営労働政策委員会報告においては、個別企業を支える正規従業員の確保と勤労意欲引き上げのための企業風土・公正・公平の処遇への道を選択するに至ったのだ。
これは労働分野を取り巻く理念としては、大転換なのでもある。
事実マスコミも、『日経ビジネス』オンラインが実施した世論調査は、「成果主義が仕事への意欲を低めている」との回答が41.4%、「高めている」(18.0%)の2倍以上に達したと報じている(「このままでは成果主義で会社がつぶれる」NBonline、2007年12月10日)。



日雇派遣労働者は競争力確保のための限りない労働力確保と賃金コスト削減のきっかけとなっていた。
日雇派遣は、引っ越し業界や梱包業界その他を支えつつあったのだが、フルキャストとグッドウィルは業務停止処分が行われ、厚生労働省は日雇派遣の業態をつぶしてしまうことにしたのには間違いがない。この2社ともに、労働局の指導のためか、現在あまりにも型にはまった業務改善を続けているのではあるが、手間がかかりすぎて、ほぼ採算面では赤字となっているのは間違いない。
そこへ、本年4月1日施行予定の厚生労働省令の告示が刻々と準備されており、グッドウィルについては主要事業所が1月18日から4ヵ月間の業務停止命令を受けているのだが、停止命令が解除された5月には、手足をがんじがらめにされ、業態は再起不能とされるのである。
準備されつつある省令は、読んでいるうちに惑わされそうになるが、日雇派遣が赤字転落するポイントは次の三つである。
第一は、集合場所からマイクロバスなどで工場へ移動する時間も賃金支払いが必要になること
第二は、日雇雇用保険、日雇健康保険の適用が義務づけられること
第三は、派遣先が1日1回以上、派遣契約書通りであるかどうかの巡回が義務づけられ、罰則適用がされること
そしてきわめて重要なのは、
日雇派遣労働者の定義がされ、日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者としたことである。
日々とは毎日ごとに仕事の有無を確認し雇用契約されるものを指し、例えば、「今日明日の2日間きてくれ」とした場合は2日間の雇用契約である期間雇用となるのだ。そして、1ヵ月単位の事務系派遣であっても日雇派遣労働者となるケースが生まれるのだ。
製造派遣でトラブルを頻発させている派遣元業者も1ヵ月単位の派遣が多い。
イベント系はすべてがそうだ。したがって、その影響はきわめて広いのである。
ここから分析できることは、
グッドウィルなどの日雇派遣に名を借りて、細切れの派遣スタッフを導入するとして来た日本の労働分野の実態に対して、「規制緩和がリバウンド」することになるのだ。経団連が大きく方向転換したことも重要だが、個別企業において、グッドウィルが吸収したクリスタルグループに、苦々し思いをさせられ、煮え湯を飲まされた大手の経営者も少なくない。なので、グッドウィルの名が出て来ると、「大賛成」に回ってしまうといった状況だ。人材派遣業者団体も、いち早くフルキャストとグッドウィルを処分し態度を明らかにした。(ただし、一般マスコミの洞察力の甘いところは、この団体にも主要ポストに労働省OBが就職していることは書かないことなのだが)。
まさに、ホリエモン、村上ファンド、そして労働分野では「ジュリアナ東京」発祥のコムソン・グッドウィルなのである。
日雇派遣労働者の劣悪な労働条件の労働問題を超えて、社会問題として広く認知されてしまったのだ。



併せて、注目すべきが、ナショナルセンターの連合の動きである。
今年の春闘で連合は大手派遣会社に対して、組合員が存在しなくとも要求書を提出する動きに出るとのことである。組合員が存在しなくとも?といっても、組合員名簿を出していないケースも含まれるのは当然のことである。
また、連合本部は、傘下の連合加盟組合に対して、企業グループ内の派遣会社に対して団体交渉を申し入れるよう呼びかけている。この場合、親会社から組合員が出向しているわけであるから、団体交渉を拒否することは労働組合法上できないことになるのである。
昭和61年労働者派遣法の際には、ただ反対といっていたナショナルセンターだが、約20年を経て、この労働者の劣悪な実態をきっかけに、「業界交渉」に足がかりをつけることになった。
これには、労働組合運動の大ヒットの可能性をはらんでいると専門家筋は見ている。労働分野というのは、労使の物理的圧力と政策能力の対立構図そのものであることから、やはりここでも、「規制緩和のリバウンド」が生まれる可能性が大きいである。



そこに注目すべきことに、1月28日東京地裁の、
日本マクドナルドの店長を管理職扱いにして残業代を未払いしたのは違法であるとの判決のニュースが、日本国中を飛び交った。
マクドナルドだけで、その直営店店長は全国で約1,700人である。チェーン店展開で同じような業態をとるファストフード店やコンビニ、それ以外にも影響が出る。マスコミも気付かないからくりは、ここにもある。それは、アメリカ国籍企業が日本で事業展開する上で、日本政府にきわめて強くホワイトカラー・エグゼンプション実施要求を突き付けていることとの動向関係にも注目を要する。
東京地裁は訴訟を提起した直営店店長について
(1)アルバイトの採用権限はあるが、将来、店長などに昇格する社員を採用する権限がない
(2)一部の店長の年収は、部下よりも低額
(3)労働時間に自由がない
といったことを判決で指摘している。こういった事から、「経営方針などの決定に関与せず、経営者と一体的立場とは言えない」とし、
加えて、「店長の職務、権限は店舗内の事項に限られており、労働基準法の労働時間の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないとは認められない」とのことを証明し、時間外労働の支払いを命じる判決の理由づけをした。
原告の高野さんは東京管理職ユニオンの組合員である。セメダイン管理職組合のときも東京管理職ユニオンであった。
おそらくセメダイン事件のときのように、この判決を受けて厚生労働省が一斉に動くことは間違いない。
さてそうなると、労働基準監督署の監督指導の対象となる事例を予想してみると、
・始業終業の時刻を超えて勤務を命じられ、金銭決裁権限を持たされていない事例
・昇進後も管理職手当の分を調整給から減らされるなどで給与総額がほぼ変わらない事例
・事業所の中で、管理監督をする者とした員数が半数を超えているとの事例
・もとよりサービス残業が多く、管理職に昇進した後も職務内容や労働時間が同様の事例
・早退遅刻の自由もなければ、部下の人事や評価の関与を禁止するとなっている事例
・派遣スタッフの採用配置は行うが、そのマニュアルに従うことを命じられている派遣会社の事例
・営業課長手当は付くが、契約締結や部下への指揮命令の権限が制限されている事例
・秘書とはいうものの、もっぱら庶務や経営者の身の回りの用務で早出残業する事例
・店長とはいうものの、採用・解雇・仕入・販売価格その他店舗管理はマニュアル通りとされている事例
・課長や次長の名刺であっても、実際の部下数名で管理監督する対象者がいない事例
などである。
1月29日、経団連の労働問題担当、草刈隆郎副会長(日本郵船会長)は、マクドナルドの東京地裁判決を受けて、
「名前(役職名)だけ与え、給料は安く、管理職の評価をしていないとすれば、モラルの問題だ」と、公然とマクドナルドを批判した。
労働基準監督署での申告か!紛争調整委員会の斡旋か!といった個別企業の事件のみならず、これが社会問題化することは間違いない。
ここにも、労働分野の、「規制緩和のリバウンド」が待ち構えているのである。



人事・総務部門に関わる関心事としては、
たしかに、ベンチャー企業が生き残るにも大変な日本社会であり、政府行政がほとんどベンチャーを応援しそうにない環境ではあるが、
天然資源の少ない日本経済にとって一番大切なのは労働力人口の増減問題よりも、
中小企業とて世界に売り出す高付加価値製品と高水準サービスの商品提供を支えるための
日本文化と文化経済を背景にした人材の育成・人材の集積を念頭におくことが重要課題なのである。
だから、競争力一辺倒、成果主義一辺倒の未熟な経営管理感覚では先行きが不安であり、
「企業発展や出世意欲」には関心のない人たち向けの賃金人事体系が必要とされ
半年後に迫る30年ぶりの、それもハイパワーのスタグフレーションとの予測だからである。



有給休暇の管理ソフト開発、長年にわたってお待たせいたしました。
もちろん、個人ごとの残日数が一目で分かるようになります。年度がわりに有休を発生する制度に適応させるなどのオプションもあります。梅雨明けに完成予定で、開発は最終段階に入っていますが、皆様の些細なるご要望やニーズも含めて寄せていただければ幸いに存じます。
http://www.soumubu.jp/info/kujo.html